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商工ローン(ビジネスローン)の保証人になったフリーランスの体験談

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平成14年の夏。オレは、ときたま行くクラブのホステス・真由美(仮名)から、借金の保証人になってほしいと頼まれた。

彼女は長年、東京赤坂の高級クラブに勤め、1年前にこの地方都市に引っ越してきた。田舎町て彼女の都会的な華やかさは目を引き、またたく間にナンバーワンの売れっ子になった。

当時、オレは26才。ちょっとは名の知れたコンピュータ会社でプログラマーをやっていた。

自分で言うのもなんだが、仕事の腕は社内外で評価を受け、取引先から接待に誘われる機会も多かった。

真由美を知ったのも、接待の席。彼女とは同い年のせいか妙に話が合い、その後も個人的に通うようになったのだ。

といっても、オレと彼女は男女を超えた気の合う飲み仲間。 遊び友だちといった感じて、恋愛関係などはない。

ただ、向こうは多少オレに好意を持ってるのか、プライベートでゴルフやテニスなどにアゴ足付きて連れて行ってくれたりもした。

そんなある日、店が終わった後、一緒にカラオケに行くと、 彼女が改まって言う。

「いつもお店に来てくれて、ありがとう。これ、もらって」 見ると40、50万はするロレックスの時計だ。

理由もなく高価なプレゼントをもらうのは気がひけたが、正直言ってうれしかった。オレは深く考えず、その時計を腕にはめた。

それから1週間後。真由美から会社に電話がかかってきた。 折り入って頼みたいことがあるので、どこかで会いたいという。

急いで仕事を切り上げ約束のバーに行くと、真由美は保証人になってほしいと切り出した。

◆保証人になってくれたら 20万ずつ払う?

「駅前に手ごろな物件があるの。 私もこの辺で落ち着きたいし」 自分の店を持ちたい。それに ピッタリの店舗が売りに出てるので融資を受けて購入したい。

そこで借金の保証人になってくれというのだ。

もちろん返済には自信があるし、お礼に毎月オレの口座に20万円を振り込むともいう。

借りる額は500万。この場合の保証人というのは連帯保証人と違い、最終的には債務の履行に責任を持つ必要はないはずだ。

そのときオレの頭にあったのは損得勘定だった。不動産屋の見取り図や内装の見積もりを見せてもらうと、場所はいいところだし物件的にも問題ない。

真由美の人柄や客のあしらい方を見る限り、きっと繁盛するに違いない。 ってことは、ヘンコを押すだけで月20万、年間に240万円が転がり込んでくることになる。

これ以上、お手軽なサイドビジネスはない。 その場でOKしようかとも思ったが、オレは一応「1週間時間をくれ」と返事をした。

気持ちは傾いていた。

真由美の店のママに「あのコ、人気があるのにプレゼントなんかしたの山下さんだけよ」などと言われまんざらでもなく、あいつに稼がして貢いてもらおうか。

なんて、いっぱしのジゴロにでもなった気分。 だから真由美が「返事を聞かせて」と言ってきたときには、心は決まっていた。

厨房の内装費が思ったよりかかりそうなので、700万借りることにしたと言われても「そうか」と生返事だった。

念のため「失敗したら店の権利はオレのもんだからな」と言うと、それていいと言うし、誓約書も書くという。

そして2日後、真由美は本当にワードで打ち出した誓約書を作ってきたのだ。

「店の売り上げにかかわらず、 甲(山本真由美)は毎月、金20萬圓を乙(山下賢一)名義の口座に支払うことを誓います」

冷静に考えれば法的に何の根拠もない。が、甲とか乙とかいう専門用語を駆使して作られた誓約書は、さも正式な書類めいていた。

「いくら親しくても、こういうことはちゃんとしておかないと」 そう言う真由美が、やけに頼もしく見えた。

彼女が最初に保証人の話を持ち出してから誓約書に署名、捺印するまで約1カ月。オレが考えている間、せっつくこともなかったし、金に困ってる素振りもなかった。

オレは完壁に真由美を信用してしまったのだ。

◆ただの保証人のはずが『連帯保証人』に!

翌日、オレは真由美と一緒に 彼女の取引先銀行に出かけた。 だが、担保もなく貸すことはできないと、一言の下に断られた。 ま、それは予想の上だった。

そこで次に本命の信販会社に出向いた。 そこは、リフォームという名目で見積もりを出し、目的ローンという形なら貸せるという。

しかし保証人がいても300~400万円がせいぜいとのこと。

相談の結果、信販系2社から借りようということになったのだが、話を詰めていくと、手続きに数カ月かかるらしい。そこで真由美が言い出した。

「昨日友だちから聞いたんだけ ど、店舗や商工者専門に貸してくれる会社があるんだって。しかもサラ金じゃなくて」

どこで借りようと返済は彼女がするんだし関係ないと、そこへ一緒に行ってみることにした。

で、その「商工ローン○○」に行くと即日融資OKの回答。

喜んでお貸ししますという。ただ、オレが保証人ではなく「連帯保証人」になれば、の話だ。

いくらオレでも、連帯保証人の怖さは話に聞いている。人の借金を背負い、人生を狂わされたヤツはそれこそ数えきれないほどいるだろう。

頭では、断った方がいいとわかっている。なのに「1日だけ待ってほしい」と答えているオレだった。

だが、1人て悩んて結論が出るわけもなく、とりあえず次の日、真由美と商工ローンへ行く。 と、担当者の机の上に、700万円の現金がドーンと乗っていた。

人間とは弱いモノで、現ナマを前にオレは勝手に皮算用を始めていた。

「毎月20万くれるってことは、 3年足らずで700万はオレのものになるのか」

真由美を見ると、そんなオレを、目を潤ませ真剣そうな顔つきで見つめている。

改めて周りを見回すと、店舗は新しく、10人ほどいる社員も 全員がスーツを着こなし、パリッとしている。怪しい雰囲気は どこにもない。 うーん、どうしよう。

冷静な つもりだったが、利子は11パー セントだから、もし真由美が逃げたとしても月7万7千円。それならなんとかやっていけるかなと、元金のことなど考えずOKしていた。

意を決し、実印を押そうとすると、ローンの担当者が印鑑証明も必要という。オレはその場から役所に直行、とんぼ帰りで取ってきた。

真由美は「ごめんね。駐車代は私が出すから」なんて細かいことを言い、オレはオレで早くもお礼の20万をもらったつもりになって「いいよ」と太っ腹なことを言う。

たぶんオレはパニクっていたのだ。 印鑑を押す瞬間も、オレの頭の中では240枚の万札が舞っていた。劇的でもなんでもなく、ただ金勘定しかなかったのである。

融資担当者と返済プランについて話し合う真由美。店の計画書を出しながら、月々30万ずつを返していくと言う。

オレが、いくらなんでもそんなには無理じゃないかと聞くと「あなたは客だから言わなかったけど」と前置きして、ボトルキープの酒は安いのと入れ替えるとか、つまみも客が残したものを混ぜるなど、飲み屋のとんでもない裏話を暴露。

普通なら怒るところだが、そんな話をしてくれるほど信用してくれているのかと、逆に感激してしまうオレ。

審査担当者に「30万返せますから」と涼しい声で答える真由美に、 こいつやるな、なんて心底、感心してしまったのである。

◆店の女のコたちから「陰の社長」と呼ばれる

翌日から、真由美はオレにモーニングコールをかけてきた。 クラブ勤めを続けているから朝起きは大変なはずなのに、毎日かけてくる。

そのたびに店の工事の進み具合を報告し、「これも山下さんのおかげよ」嬉しい言葉をかけてくれる。

それを真に受けたオレが調子に乗って店に飲みに行くと、全部おごり。

1回に3、4万はかかるはずなのに、オレから金を受け取らない。そればかりか、別に50万円を包んできた。

「ごめんね。これぐらいしか払えないけど、お礼の気持ち。受け取って」 一度は突っ返したが、どうしてもというので、半分の25万円を受け取った。

何もかも順調だった。約束どおり真由美から20万円も振込まれてきたし、店ではおごり。

モーニングコールも毎朝来る。 厨房を大きくしたいという真由美の希望を入れた店の改装がいまだに遅れていたが、不安は微塵もなかった。

真由美の店がオープンしたのは、オレが実印を押してから2カ月後のこと。開店には貴賓として招待され豪遊。

真由美が雇った6人の女のコから“陰の社長”と呼ばれ、本当に彼女のヒモにでもなった気分でいた。

店は客が入ってる割りに回転が早く、改めて真由美の手腕を再確認。

「こんなことならあんなに悩むことなかったな」というのが正直な心境だった。

その後も店は盛況のようだったが、真由美からかかってくるモーニングコールは日を追うことに減ってきた。

2日に1回か3日に1回になり、そのうち1週間に1回がいいとこに。

忙しいんだろうとは思い、オレからモーニングコールをかける。 「ごめん、寝て たの」 ねぼけ声で真由美が答える。

ああ、本当に頑張ってるんだと そのときは納得するが、連絡がないと心配になるのはオレが小心者ゆえか。で、店に行くと真由美は「わあ来てくれて嬉しい」と、大歓待。

つまみなんかをジャンジャン持ってきてくれたりする。こうして3カ月目も何事もなく終わろうとしていた。

もうそろそろ真由美からの振り込みがあるころだなと思っていたころ、彼女から電話があった。

「私、真由美。店も軌道に乗ってきたんて、女のコたち連れて 明日から3泊4日の香港旅行に行くの。で、山下さんにジェリーを預かってほしいんだけど」

そう言うと真由美は、まだ小さいシーズー犬をオレのマンションに連れてきた。旅行当日も「これから飛行機に乗るの」と、 成田からわざわざ会社に電話をかけてきた彼女。

しかしその日を限りに、真由美からの連絡はまったく途絶えてしまったのである。

◆彼女が引っ越した?

おかしいと思ったのは、真由美が香港から帰ってくるはずの4日後の夜。いままでの彼女だったら、帰国した時点で必ず俺に連絡をくれた。

ま、今回は店のコたちもいるし、東京のホテルに泊まったのかもしれない。

そう思ったが、翌日になっても連絡はなく、彼女の家に電話を入れても呼び出し音が鳴るばかり。店に電話をすると「ママはまだ来てません」の返事。

かわいがってたシーズー犬を 引き取りにも来ない。

留守にしていた分、忙しいんだろうな、と思い込んでいたのだが、そうではなかった。 真由美が香港から帰って1週間が過ぎたころ、例の商工ローンより電話が入った。

「彼女、どこにいるんですか」 「はい?」と、オレ。

「実は今月分をまだ返済いただいてないんですよ。真由美さん、自宅を引っ越されましたよね。で、連絡つかないんですよ」

え??引っ越し??ジェリーはオレんちにいるのに?

不安になって家に行ってみると本当だ。彼女がいた部屋はもぬけの空。 管理人に聞くと、2日ぐらい前に荷物をまとめて出て行ったという。

その足で店に駆けつける。よかった。開いてる。だが真由美はいない。

店のコに聞くと「そういえばママは昨日も来なかったな」なんてのんびりしたことを言う。

よく聞くと、香港から帰って2日は出てきたが、その後は店に出てきていないようだ。 へンだ。これはおかしい。

必死で探しまわり、以前、彼女が働いていた店や仲の良かった同僚などを当たったが、本人の行方はまったくつかめない。

そういえば東北が故郷だと言っていた。もしかして、誰かが病気になったとか、そんな急用ができて帰っているんだろうか。 真由美は両親のことをよく話していたもんな。

あいつのことだから、落ち着いたら連絡してくるだろう。この時点でも、彼女を疑う気持ちはなかったオレだ。

「あたし、もうママやめる。給料は山下さんに渡しておくから、あの人からもらって」

しばらくして真由美から店に電話が入る。オレはその翌日、「いつお金もらえますか」という店の女のコから連絡がきて事情を知ったのだ。

もちろん、そんな金はもらってない。1人あたりの給料が25万としても6人で150万。とてもじゃないが払えっこない。

女のコにはそう言えばいいが、連帯保証人になっている商工ロ ーンにはそれじやすまない。

オレに「話をしたい」という連絡が何度も入った。仕方がない。 真由美がいないんじや店もままならない。店の権利を売って返済しよう。 と思ったら、店の権利書がない。

あいつ、店を担保にしてヤミ金融から300万借りていたのだ。 オレは真由美の行方も思惑もわからないし、商工ローンは返してくれの一点張り。

そしてヤミ金屋までもが、保証人でもないオレに「どうにかしろ」と、電話攻撃をしかけてくる。

もう、借金地獄とはこのこと。 オレは必死で逃げ道を探した。 何かウマイ方法はないか。

弁護士事務所に相談に行ったが、30分で5千円取られ、何も解決しない。

が、改めて金一封(10万) を包んで行くと、具体的な方法を書面にしてくれた。

それによると、裁判所に調停の申し込みを行い、商工ローンと話し合えという。

向こうも、もしオレが払えないで自己破産してしまったら、まるまる損害を受けてしまう。

そこで、少しでもいいから返してくれと「金利の凍結」を言い出す。それを待てというのだ。

教わったとおり調停を行うと、商工ローンの弁護士は3回目で「金利の凍結」を言い出した。

金利分はいらないから、元金の700万を分割で払ってくれというのである。

連帯保証人として印鑑を押した以上、まったく知らないとはいえない。真由美が3カ月分、90万を払っているから残りは610万。

オレは月々7万ずつ払うことを約束して証書を作成した。

完済には7年以上かかることになる。気が遠くなるような話だが、欲を出したオレが悪いのだからしょうがないか。

それにしても、参ったのはヤミ金だ。保証人になってないから本当は関係ないのに、脅迫電話をかけてくる。

法律にひっかかるだろうに、平気で「逃げたヤツを探してこい。じゃなきゃおまえ、指詰めろ」なんて言う。

オレはもう一度金を包み、弁護士に仲介に入ってもらって和解した。向こうが出した条件はひとつ。真由美を探し出すこと。

オレは、会社を辞めた。彼女を探すために自由な時間が欲しかったからだ。といっても、自暴自棄になったわけではない。

前々からフリーになって仕事をやってくれないかと誘いを受けていたので、採算があってのこと。会社勤めよりはいい金になっている。

もちろん、真由美に騙されてくやしい、なんとか探してやりたいという気持ちは大きい。

まずオレは、彼女が以前働いていたと言っていた、赤坂のクラブへ聞き込みにでかけた。

で、ビックリしたのは、真由美のやつ、ここでも元同僚たちを騙してたことだ。

「ちょっと名前だけ貸して。お礼するから」などと持ちかけ、人の名前を使い消費者金融で150万も借金をしていた。50万から150万まで、わかっただけで被害者は23人。

被害総額は2150万円に上った。

明らかに計画的な詐欺である。

しかも彼女、証拠となるものは何ひとつ残していない。

例の誓約書だって、借用書ならば民事訴訟や刑事訴訟に持ち込むことができるが、誓約書では逆に、保証人になるから毎月金を払えと持ちかけたと訴えられかねない。

あいつは、本当にしっかりしたヤツだったのだ。

◆あれから4年

オレの商工ローンへの払い込みはまだ続いている。順調に行っても、あと3年はかかる予定だ。 真由美の行方は、まだわかっていない。

もちろん、仲良くなった例の弁護士を通して、彼女の戸籍騰本を入手。親戚たちを洗い出し、あいつが故郷にマンションを購入したことをつきとめた。

だが、オレが探しているのは真由美本人である。 しかし、彼女が捕まるのも時間の問題だろう。

あいつが先週、赤坂のクラブに現れたのをつきとめたのだ。 オレは赤坂、六本木など、真由美が行きそうな店で定期的に聞き込みを行い、自宅にフリーダイヤルを設置。

24時間情報をキャッチできるようにした。 先日、そこに馴染みになったバーテンから電話が入った。

あいつの行動範囲は、だいぶ狭まったようだ。 たぶん今年中にはケリがつくだろう。ヤミ金の連中が言うには、真由美ならフーゾクで年に700万円はいけると言う。

捜索費用も含め、今度こそたっぷり貢いでもらおうと思っている。

(おわり)

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